愛の言葉に返事はいらない

楽しい予感のする方へ

「推し」を応援する全ての人へ~舞台「99」感想~

 

 こんなブログタイトルにしておきながら、いわゆる「推し」に手紙を書いたりコメントなりリプを送ったり、という行為が未だに苦手だ。
何せ相手の反応が見えない、知る手段もない。
返事だとか個レスが欲しい、というのとは少し違う。

 この感想、ものすごく的外れな事を言ってるかもしれない。
 こういう表現されるの、嫌かもしれない。

 そういう不安が手紙を出す前、送信ボタンを押す前、いつも渦巻いている。
とは言えそもそも実際問題、私はこう見せたいとお出しされている「推し」しか知らないわけで。
対面で伝えて不快に思われてたとしても、役者である推しは顔にも態度にも出さないだろうから結局はわからないのだけど。

 それでも今の推しには、そこそこ早い段階からずっと手紙を書いたりコメントを送ったり、という事を続けている。

『あなたを応援しています』
『こういうところが好きです』
『あなたに救われたんです』
『あなたの頑張る姿に励まされて、たくさんの幸せと力をもらっています』

 集約してしまえばこの辺りに全て帰結する話を、表現に迷いに迷って何ヶ月前の作品の感想を今送ってるの、と自分でツッコミを入れながら。
推し自身が節目節目(個人イベントなど)で思いを丁寧に丁寧に言葉にしてくれるのもあって、両手では抱えきれないぐらいもらってしまう幸せを少しでも、応援という形で返せたら、の思いで言葉を綴っている。

 

 そんな日々の中、2021年4月に観劇した推しの初主演舞台「99」(ナインティナイン)。
ファンになってからずっと0番に立つ推しを観たい、と夢見てきて。
2018年の2.5次元男子放送部出演の際の入部届(だったかな、現在消えてしまって見れません)に夢を「主演」と書かれたから、同じ夢を見られることに嬉しくなってしまって。
劇中劇での主演(MANKAISTAGE A3!WINTER2020)、W主演(狂言男師~春の章~)を経て、ときれいにステップ踏んでるの相変わらずストーリー性が高すぎませんか*1、と思ったりしながら足を運んだ博品館劇場。

 もう作品としてもめちゃくちゃ面白くて、楽しくて。
これだけ素晴らしい作品の真ん中に主演として推しが立ってるって幸せが過ぎる!と観劇すると同時に、作品中でものすごく『ファンとして推しを応援する事』が肯定されて、そうする事によって推しに届く力の描写に、「こんなに肯定されていいんですか?」と戸惑うレベル。
 幸福が過ぎるとキャパオーバー起こすよね、それぐらい『推しを全力で応援する事』への賛歌と言っても過言じゃないと思った。

 

 舞台「99」の主人公は、「中学生刑事」で天才子役として一世を風靡したものの成長してからは鳴かず飛ばずになってしまった映画スター、神木坂つばさ。
記憶から消えかけていた彼の名前は、再び世間に知れ渡った。
役者としてではなく、とある傷害事件の犯人、犯罪者として。
「囚人番号99番」となり収監されたつばさは、刑務所内でも変わらぬ真っ直ぐな純粋さやそのスター性で担当刑務官や囚人たちの心を引き付けていく。
そんな最中、つばさは冤罪ではないのかと疑惑が持ち上がり……、というのがざっくりとしたあらすじだが、今回スポットを当てるのはつばさの担当となる刑務官・黒澤。

 囚人たちを生きてても何の価値もない、社会のクズと罵り、必要なのは指導ではなく粛正と言い切る鬼刑務官。
人間の心を持たない悪魔のような男、と言われるまでに歪んだ正義感を貫いていた彼の人生は、囚人番号99番となったつばさが刑務所に現れた事で一変する。
 何せ黒澤は、つばさが「中学生刑事」で演じた“ほしかげひかり”のキメ台詞や名乗りを完コピして満足げににやけてしまうような熱烈なファン。
そう、私と同じ「推し」の「オタク」だ。

・推しの出演作品のタイトルやキメ台詞を間違えられると、大音量で訂正。
・推しに握手を求めれば手が震えるし、口を開かせる隙なく自分だけ矢継ぎ早にしゃべってしまう。
・推しの出演作を好きだと話す囚人を同士と認識して贔屓する。
・推しがちょっとした刑務作業(箱を横に倒す)ができただけでべた褒めする。
・刑務作業中の推しの一挙手一投足を録画
・推しの録画に日々の成長を感じて感極まる。
・一番好きだろう中学生刑事でのキメ台詞を演じる推しを目の当たりにして『生きてて良かった……』と泣き出す。

 これは黒澤のオタク的行動列挙だが、あるあるある……となる方は多いと思う。
個人的には最後に関して、今回夢見ていた推しの主演舞台を観られて泣く自分とあまりにも一致しすぎていた。

 

 最初は彼に粛正されると聞いたのと、推しの姿を見たいけど真っ直ぐにはみつめられずに周囲をうろうろしてのぞきみたりする姿の挙動不審さでつばさ本人に怯えられたり、いじめられていると勘違いされて、自分はあなたの味方だ、もう一度あなたを銀幕の世界に戻すなんて言葉が届かなかったり。
つばさの熱狂的なファンという顔を周囲には隠し、推しに気安く声をかけたり握手を求めたりする囚人たちを許さない事の言い訳に、今は芸能人ではなく犯罪者、人間のクズと言わざるをえなかったりして推しの心を傷つけ泣かせてしまう。
 しかし推しと過ごす3ヶ月の間に黒澤は変わる。
 囚人たちをクソ野郎ども! と呼ぶのはそのままだが、推しと囚人たちの触れ合いを生きる希望を取り戻す要因として許すようになったり、受刑者の社会復帰のために幅広い教育を行うという大義名分で、明らかにつばさ向けに刑務作業に発声やダンスなどを組み込んで全てできないと生き残れないぞ!と叱咤激励する。
 すべては推しをもう一度銀幕の世界に戻すために。
黒澤の行動は全て推しの応援に帰結し、そのために全力を尽くす。
その変化はつばさに対してに留まらず囚人たちにも、お前たちにも未来はあるんだから、と相変わらず口は悪いが思いやるようになるレベルで。
彼の人生は、1度目は暗い学生生活を送っていた頃に見た銀幕の世界のつばさの光に、そして2度目は囚人番号99番として現れたつばさの光によって、その道筋を照らされたのである。

 

 そしてこの黒澤の思いは、決して一方通行なものではない。
自分はもはや犯罪者だという現実を改めて突きつけられ、絶望に沈むつばさに一筋の光を照らすのは、刑務官ではなく一人の人間として目の前のつばさ、99番に向き合って必死に紡がれる黒澤の言葉だ。

もう一度銀幕の中で輝く姿が見たい。
映画の中で頑張っているつばさを見ると自分も頑張ろうと思えた。
君は人生を照らした、私にとっての光だ。

 全力で自分の事を応援している黒澤の心からの言葉につばさの心もほろりと溶け、誰にも信じてもらえず口をつぐむしかなかった真実を吐露したことでようやく冤罪の可能性が浮かび上がる。
その後つばさの冤罪を疑っていた記者の協力を取り付けた黒澤は、つばさの復帰に向けて手を尽くし、ついに失意の底にいたつばさにもう一度映画に出る、スクリーンの中に戻るという希望を取り戻させた。
 推しに力をもらった、人生を明るい方向へ変えられたオタクの応援が、推しの道を照らす光にもなったのだ。

 

 私は刑務官でもない。
当然冤罪をかぶって刑務所に入れられる推しとは出会わない。*2
 状況はまるで違う、それでもこんなにも丁寧に精一杯推しを応援するオタクの姿と、そのオタクに救われる推しの姿を描かれると、自分が抱いている推しへの応援の気持ちも肯定というか祝福というか、をされた気分だった。

 黒澤も最初から上手く推しに応援を届けられたわけではない。
憧れの神木坂つばさ、ではなく目の前にいる囚人番号99番*3、として見つめだしただろう事が一つのきっかけであるのならば。
遠い存在ではあるけれどちゃんとそこにいる、一人の人間として向き合って言葉を紡げば、この応援はちゃんと届ける事ができると思ってもいいのかな、と。
冒頭で抱いていたような不安が、少し軽くなった。

 

 この作品のEDで披露される一曲、『君はスター』。

サビのフレーズは2種類ある。

(劇中歌映像はラストのみのため確認できるのは②のみ)

①君はスター "僕"のスター
②君はスター "俺"のスター

 作中、"俺"は黒澤を始め他の囚人たちも主な一人称として使うが、"僕"を一人称として使うのはつばさただ一人。
双方向に照らしあう応援する存在と応援される存在が表現されているように感じて、あそこまで眩い光でなくても、少しでも推しの心に届けられるものがあるのならば。
その思いで、今日も私は言葉を綴る。

 

舞台「99」あらすじ・演出等完全なるネタバレを含む対談

youtu.be


ゲネプロ記事:
スマートボーイズさん

sumabo.jp


2.5次元!!さん

25jigen.jp


初日ダイジェスト映像

 

つばさソロダイジェスト映像

舞台「99」公式サイト:BARREL Produce |

*4

 

<余談・作中外の話>
①つばさを演じた推しの夏イベントでの話
 黒澤からつばさに対して君は私の光だ、という事は明言されるがつばさから黒澤に対しての明言はない(視線、感謝の言葉、諸々ではもちろん感じられる)。
 明言はないが推しのイベントにて、つばさが黒澤から光をもらっている事を自分とファンの持ちつ持たれつに置き換えて、元気ない時に俺もみんなの応援で力もらったり、なんて発言が出てきてもったいない言葉過ぎて客席で崩れ落ちるところだった。
冒頭にも書いたけど本当に折に触れて、応援に対する思いを言葉にしてもらってしまっているので、少しでもお返しできたらいいな、の思いでまた応援を綴るという素敵な循環を作っていただいているな、と感謝の気持ちしかない。
 今感想貯めに貯めている上怒涛に情報解禁が来ておぼれてますが。

 

②黒澤を演じた稲垣さんの配信イベントでの話
 これだけ黒澤を推しのオタクでありあまりにも私たち、という表現で語っているし、実際稲垣さんもオタクの再現度についてファンレターによく書かれていたとのことだったのに、ご本人が「黒澤をオタクとは思ってなくて」と発された衝撃。
実際「好き、のレベルを上げた感じ(結果オタクっぽくなった)」というお話で、ト書きや演出でそう見える部分もあれど、何というか、オタクとしての自分もちゃんと対象への『好き!』を真っ直ぐに純粋に届けていける存在であれたら、となんだか身の引き締まる思いだった。

 

*1:新潟出身&名前に星、田中姓で新潟の星と言われる上越新幹線役を演じる、鉄ミュ2の大千秋楽で新潟に連れて行きます! と宣言して3で実際に新潟公演が実現、新潟のローカル番組で密着取材を受けた際、地元でお友達との撮影中に虹がかかるetc...

*2:完全なる余談だが推しは冤罪で実刑判決がくだる役は2回目である

*3:黒澤がつばさに対して『光』という表現を使う場面は2回ある。1度目は過去の話をする前述のシーン、そして2度目はつばさの冤罪を晴らすため、他の囚人たちに協力を依頼するシーン。どちらも『君』は、『99番』は、という表現が使われており、『神木坂さん』と呼んでいた初期との変化が感じられる。この辺りの台本の上手さもいずれ感想を書きたい

*4:Twitterに上がってるものが多いので自分の備忘録もかねてのリンク